woods.tokyo

はじめに / 第2章

多摩の林業

東京の森林の約7割は、都の西部にあたる多摩地域にあります。面積はおよそ5万3千ヘクタールです。[1] 多摩の民有林では6割がスギ・ヒノキなどの人工林で、その多くは昭和30〜40年代に植えられました。[1]

52,867ha
多摩地域の森林面積[2]
約8割
人工林のうち51年生以上(11齢級以上)[1]
1割未満
人工林のうち20年生以下(4齢級以下)[1]

多摩の森のいま

植えた時代と、植えなくなった時代

造林は昭和35年に年間1,500ヘクタールを超えました。その後は急減し、平成15年には6ヘクタールまで落ちています。[1] 齢級でいえば、山には同じ世代の木ばかりが立ち、若い林がほとんどない状態です。

年度新たに植えた面積状況
昭和35年1,500 ha 超拡大造林の盛期
平成15年6 ha最も少ない時期
令和4年度48 ha伐って植え直す事業が続く

出典:東京都『林業・木材産業循環成長対策 変更事業構想』[1]

伐られない理由

木材価格の長い低迷と人件費の上昇で林業の採算が合わなくなり、使える太さに育った50年生以上のスギ・ヒノキの伐採が止まりました。[3] 地形が急で作業の費用がかさむこと、都内の林業経営体が小規模で利益率が低いことも重なっています。[1]

花粉という形で都市に届く

伐られずに残ったスギは都市の暮らしにも影響します。都内のスギ花粉症の有病率は、平成29年の調査で推定48.8%でした。平成18年度の調査では28.2%です。[3] 東京都農林水産振興財団は、スギを伐って花粉の少ない品種に植え替える事業を進めています。平成18年度から令和2年度までに、この事業で累計25万7千立方メートルの木材を出荷しました。[3]

天然林と国有林

八王子市の高尾山国有林では、モミの天然林が植物群落保護林に指定されています。冷温帯と暖温帯の境にあたり、天然林にはイヌブナ、コナラ、モミ、ツガなどが見られます。[4]

全国で見ても、自然のままの植生は多くありません。上野公園の博物館で見た展示パネルは、日本の森林面積は70%を超えるものの、ほとんどは里山の雑木林やスギ・ヒノキ・カラマツなどの人工林で、自然林と自然草原を合わせた「自然植生」の比率は19%だと示していました。パネルの出典表記は、環境省の自然環境保全基礎調査です。

暗い壁の展示パネル。光る日本地図の横に「森林の開発」「日本の自然植生比率(自然林・自然草原)19%」の文字
展示パネル「森林の開発」の一部(展示より引用)。日本の自然植生比率(自然林・自然草原)は19%。上野公園の博物館で、2021年10月14日、筆者撮影。
展示ケースに立てられた、中心が空洞になった巨大なヤクスギの輪切り。年輪の上に時代を示す色の帯が貼られている
ヤクスギの輪切り。中心は空洞で、年輪の上に古墳時代から安土桃山時代までの時代の帯を重ね、この木が生きていたあいだに起きた地震・噴火・異常気象を示している。同じ博物館で、2021年10月14日、筆者撮影。

保安林:自由に伐れない森

保安林は、水をたくわえる、土砂崩れを防ぐ、風を防ぐといった公益的な働きが特に大事な森林を、森林法にもとづいて農林水産大臣か都道府県知事が指定する制度です。指定の目的によって、水源かん養保安林、土砂流出防備保安林など17種類があります。指定されると、木の伐採や土地の形を変えることが規制されます[5]。全国の保安林は令和5年度末で1,229万haあり、全国の森林の49.1%、国土の32.5%にあたります[6]。

制度の始まりは明治です。明治29年の大水害をきっかけに、明治30年に森林法が制定されました。戦後の昭和29年には保安林整備臨時措置法ができ、10年ごとに延長されながら指定が進められました[7]。

指定されると課される制限そのかわりの優遇
木を伐るには許可か届出が必要固定資産税・不動産取得税・特別土地保有税がかからない
住宅を建てるなど、ほかの用途には転用できない相続税・贈与税の評価で、伐採制限の強さに応じて3〜8割が控除される
作業道づくりなどで土地の形を変えるには許可が必要
伐った跡には原則として植栽しなければならない

出典:埼玉県「保安林について」[8]。制度は全国共通の森林法によります。

東京では、多摩の15市町村を受け持つ東京都森林事務所の管内に、平成31年3月31日現在で14,838haの保安林があります。このうち12,478ha、約84%が水源涵養保安林です。国有林が935ha、民有林が13,903haです[9]。

種類国有林民有林計
水源涵養保安林48511,99312,478
土砂流出防備保安林2961,3161,612
土砂崩壊防備保安林05151
防風保安林011
干害防備保安林077
落石防止保安林03535
保健保安林154429583
風致保安林07171
合計93513,90314,838

単位 ha。平成31年3月31日現在。ほかに民有林の防火保安林10haがあり、二つの目的を重ねて指定された兼種保安林(計2,293ha)とともに、合計には入っていません。出典:東京都森林事務所「事業概要 令和元年版」[9]。

同じ管内の森林は52,867ha(平成31年4月1日現在)なので、保安林は森林のおよそ28%です[9]。全国の49.1%と比べると低めです。ただし、時点も集計の範囲も同じではないので、目安としての比較です。

平成30年度に森林事務所が扱った保安林の手続きは、伐採の許可が9件(30.4ha)、作業の許可が37件、間伐の届出が92件(112.8ha)でした。ある土地が保安林に入っているかどうかの問い合わせは379件、4,023筆にのぼります[9]。都は八王子市・あきる野市・檜原村で、都有の保健保安林10か所、計239.4haを管理しています[9]。

東京都水道局が管理する水道水源林も保安林です。奥多摩町と山梨県の甲州市・丹波山村・小菅村にまたがる25,666haで、明治34年(1901年)に東京府が御料林を譲り受けて管理を始めました。水源かん養保安林、土砂流出防備保安林、保健保安林に指定されています[10]。山梨県側の森林は、上の多摩の表には入っていません。

東京都の数字は令和元年版の事業概要によるもので、最新の面積は確認できていません。島しょ部と23区の保安林も、ここでは調べられていません。

林業で働く人とお金

林業で働く人:全国で4.4万人

全国の林業で働く人(林業従事者)は長く減り続け、2020年には約4.4万人になりました。65歳以上の割合(高齢化率)は25%で、全産業の15%を上回ります。一方で、35歳未満の割合(若年者率)は1990年以降上がり、17%になっています。[11]

4.4万人
全国の林業従事者(2020年)[11]
25%
65歳以上の割合(全産業は15%)[11]
17%
35歳未満の割合[11]
3,039人
新しく林業に就いた人(2024年度)[11]

新しく林業に就く人は、国の「緑の雇用」事業が始まる前は年に平均約2,000人でしたが、始まった後は年に約3,200人に増えました。[11] 現場で研修を受けながら働き始められる仕組みが、新しく就く人を増やしています。

東京の林業の現場

東京都が都内の林業事業体を調べた報告書(54事業体が回答)では、現場で働く人の平均年齢は45.7歳、34歳以下の割合は約27%でした。令和6年度に新しく就いた人は21人、辞めた人は19人で、1年間の定着率は91.8%です。経験15年以下の人が57.3%を占めます。[12]

給与は「400万〜450万円未満」がいちばん多く26.2%、400万円未満が約46%でした。調べた事業体の約4分の3が、前の年から賃上げをしています。[12]

危険と待遇

林業は、いまも危険の大きい仕事です。働く人1,000人あたりの1年間の死傷者数(死傷年千人率)は、令和4年に林業で23.5、全産業では2.3で、約10倍です。年間の平均給与は林業が361万円、全産業が458万円でした。[13]

働き方は変わってきています。年に210日以上働く人の割合は、昭和60年度の9%から約7割に、月給制の人の割合は2%から約3割に上がりました。[13] 雇われ方が、一年を通して働ける安定した形に近づいています。

機械化:高性能林業機械

伐る、枝を払う、決まった長さに切る、運び出す。かつて人の手とチェーンソー、ワイヤーで行っていた作業を、専用の機械が担うようになりました。全国の高性能林業機械は、令和6年度に16,431台で、前の年より1,365台増えました。10年前(平成26年度)の7,089台の約2.3倍です。[14]

機械していること台数(令和6年度)
フォワーダ切った丸太を荷台に積んで運び出す5,186[14]
プロセッサ伐った木の枝を払い、決まった長さに切りそろえる2,348[14]
ハーベスタ立っている木を伐り倒し、枝払いと玉切りまで行う2,272[14]
スイングヤーダワイヤーで斜面の下や上から丸太を引き寄せる1,151[14]

機械の働きの説明は一般的なものです。台数は全国の合計で、都内の台数は確認できていません。

林業はもうかるか

林野庁の試算では、50年生のスギ人工林1ヘクタールを伐ると、丸太の販売額は398万円です。ところが伐り出しや運搬の費用を引いた、山の持ち主の取り分(山元立木価格)は137万円にとどまります。そのあと苗木を植えて育て始める費用は275万円かかり、取り分を上回ります。伐って植え直すだけで赤字になる構造です。[15]

398万円
丸太の販売額(1ha)[15]
137万円
山の持ち主の取り分[15]
275万円
植え直しの初期費用[15]
−138万円
取り分から植え直し費用を引いた差(計算値)

林野庁は、機械化や植林の省力化を組み合わせた「新しい林業」で、いまできる取り組みで71万円、新しい技術を入れれば113万円の黒字にできると試算しています。[15] 山の持ち主の取り分が昔に比べてどれだけ減ったかは、付録の「昔の木の値段」にまとめています。

1ヘクタールあたりの金額は全国を対象にした林野庁の試算です。東京の山だけの数字ではありません。

担い手をどう確保するか

担い手を確保する柱は、国の「緑の雇用」のような研修付きの就業支援と、賃金や通年雇用といった待遇の改善です。[11][13] 東京では、事業体の多くが賃上げに踏み切り、新しく就く人と辞める人がほぼ同じ数で釣り合っています。[12] 都内で林業の仕事に就くための情報や、ボランティアで森の手入れに参加する窓口は、付録のリンク集にまとめています。

森と木と税金

森林環境税:都民も1人年1,000円

森の手入れには、税金も使われています。2024年度から、住民税を納めている人から1人年1,000円の「森林環境税」が集められています。納める人は6,000万人あまり、税収は年に約600億円と見込まれています。[16]

集めた税は「森林環境譲与税」として、2019年度から先行して市町村と都道府県に配られています。配分の基準は、私有林の人工林の面積、林業で働く人の数、人口の3つです。人口の割合が大きく、森の少ない都市部に多く配られるという批判があり、2024年度からは人工林面積55%・林業就業者20%・人口25%に見直されました。[16]

配分の基準〜2023年度2024年度〜
私有林人工林面積50%55%
林業就業者数20%20%
人口30%25%

出典:第一生命経済研究所(2024年12月6日)[16]

森がほとんどない23区にも、この譲与税は配られます。その使い道は、自分の区の中で木を使うか、森のある地方を手伝うかになります。たとえば杉並区は2023年度、学校の改築や保育施設の椅子・棚、公園の木製遊具の改修に充て、ほかの自治体と連携したカーボン・オフセット事業や、子どもの間伐体験にも使っています。[17]

公共の建物に木を使う決まり

国は2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を施行し、国や自治体の建物に木を使う方針を定めました。2021年10月の改正で、名前が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に変わり、対象が民間を含む建築物全体に広がりました。[18] 法の制定時に8.3%だった公共建築物の木造率は、2024年度には15.9%になりました。3階建て以下の低層の公共建築物に限ると33.4%です。[19] 半分以上はまだ木造ではない、ということでもあります。

地元の木を使うと補助が出る:東京都と港区

東京都は「多摩産材利用促進プロジェクト」として、区市町村が建てたり整備したりする施設で、多摩産材を使った木造化、内装の木質化、木製遊具、木製の家具や外構をつくる費用を補助しています。補助率は2分の1、上限は1区市町村あたり3,000万円です(2023年度の制度改定時点)。[20]

区の側から木の使用を求める仕組みもあります。港区の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」は、区内で延べ床面積5,000㎡以上の建物を建てる事業者に、床面積1㎡あたり0.001㎥の国産材を使うよう求めています。港区と協定を結んだ地方の自治体の木(協定木材)を使うことも促しています。2011年10月に始まりました。[21] 森を持たない都心の区が、建物を通じて地方の森にお金を回す仕組みです。

東京都の補助の最新年度の条件、23区全体と東京都・多摩の市町村への森林環境譲与税の譲与額、都内の公共建築物の木造率は確認できていません。

出典

  1. 東京都産業労働局「林業・木材産業循環成長対策 変更事業構想」 PDF
  2. 東京都「森づくり推進プラン」表1-1(原典:令和2年版 東京の森林・林業) PDF
  3. 公益財団法人東京都農林水産振興財団 説明資料 PDF
  4. 林野庁関東森林管理局「多摩森林計画区の概要」 PDF
  5. 林野庁「保安林制度」(水源林の保全) リンク
  6. 林野庁「令和6年度 森林・林業白書」第1部第3章第1節 リンク
  7. 林野庁 資料「保安林制度の沿革」 リンク
  8. 埼玉県「保安林について」 リンク
  9. 東京都森林事務所「事業概要 令和元年版」 リンク
  10. 林野庁「水源の森百選 東京都水道水源林」 リンク
  11. 林野庁「林業労働力の動向」 リンク
  12. 東京都森林事務所『林業関係労働力実態分析報告書』(令和7年度、令和8年3月) PDF
  13. 林野庁「一目でわかる林業労働(データ編)」 PDF
  14. 林野庁「高性能林業機械の保有状況」 リンク
  15. 林野庁『令和5年度 森林・林業白書』第2章(林業経営の効率化) リンク
  16. 第一生命経済研究所「6,000万人が納税する森林環境税」(2024年12月6日) リンク
  17. 杉並区「森林環境譲与税の使途」(令和5年度決算) PDF
  18. 林野庁「公共建築物等木材利用促進法」 リンク
  19. 林野庁「公共建築物の木造率について」(令和8年3月30日更新) リンク
  20. 東京都産業労働局「公共施設における多摩産材使用事例集 ver.6」 PDF
  21. 港区「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度実施要綱」 PDF
次の章:島しょの森 →